「おくんちあれこれ」
鎮西大社諏訪神社の秋の例大祭、龍(じゃ)踊で有名な長崎くんちは、宮司さんによれば「天領長崎に各地から集まった人たちが自慢の出し物を競い合う、日本全国の良いとこ取りのお祭」でございます
ここでは、十月七から九日の本番は観光ガイドなりにお任せして、祭にまつわるちょっと面白い話というのをいたすこととしましょう
【七年で一巡り】
丸山遊女の奉納踊から始まったおくんちは、旧町七十七ヶ町の踊町(おどっちょう)が七年の輪番でそれぞれの出し物を奉納いたしましますから、一通りの出し物を見物するには七年続けてお出掛け願うことになります
【庭見世】
十月三日、踊町内の大店では、踊衣装や、お祝い(お花と申します)をお披露目し、親戚、知人をお接待したり、振舞酒をしたりいたします
おくんちの曳き物の勢子(根曳・ねびき)の男伊達を競う根曳衣装は大しぼの厚地の縮緬に見事な染めの単衣、遠目には浴衣にしか見えませんが、駆け出せば裾が風になびき、汗に濡れてもすんなりと片肌が脱げるというような演出には、これでなくてはならないというのが長崎の粋というものでございます
【人数揃(にぞろい)】
四日午後、いわば舞台リハーサル、本衣装を着けて出し物の仕上がりを町内にお披露目いたしますが、各町てんでんですから、全部を見ては回れません
【裏くんち】
諏訪神社の正面石段は、昔から入場無料、前日、前々日からの泊まり込みの場所取りがあるとです
この無聊ば紛らすっとに、おくんち遊びが自然発生的に始まったごたあるけん、こいが本番のような豪華絢爛ではなかばってん、仲々の人気で面白かとです
【踊り馬場】
奉納踊りは神輿のお下りの前の諏訪神社境内、お上りの前の御旅所での二回ということになりますが、有料桟敷を設けたりして、各町が揃って順番に出し物の披露をするのが踊り馬場でございます
この際、町内の印の手拭いなどの撒き物がございますが、根曳衆が鉢巻にしているものを投げ、懐から新しいものを出すというのも演出でございます
出し物の登場を促し、あるいはアンコールには「もってこーい」の声を揃えるのでございます
そうそう、持ってこいは、言葉通りにものを持ってこいですから担ぎもの、曳き物に使い、本踊りなどの所作事には「所望やれ(しょーもやれー)」とかけるというふうになってございます
【
庭先回り
、呈上札、花御礼】
町内の寄付、市の補助、有料桟敷の入場料の外、出し物の費用を賄うために、踊町は市内の家先毎に簡単な出し物を披露いたしますが、これを
庭先回り
と申します
曳き物の舟、鯨なり、踊なりの先触れの紋付き羽織の世話役が呈上札と称する名刺を差し出し、各戸はお花紙と呼ぶ熨斗紙に住所、氏名を書いて差し上げ、後ほどお花(ご祝儀)を町事務所に届けますが、庭先回りのその場でお金が動くのは御法度であります
また、庭見世などのお祝いにもお花紙を添えるのが習いでございます
くんちの後、各町は紋付き羽織に唐人パッチの出で立ちで、お花を頂いた家に花御礼の札を配って回ります
呈上札、花御礼それぞれの札は各町意匠を凝らしたもので、ある料亭の庭見世でこれを散らし貼りに仕立てた洒落た趣向の屏風を見かけたことがございます
【結納】
おくんちの奉納は踊町の特権でありますので、町が出すのが建前、しかしながらかつての丸山遊郭ならともかく、町内自前で鳴り物から踊り手までを揃えることなど昨今難しくなってまいりました
そういう場合には町総代が踊りのお師匠さんに結納を納め、お社中が町に嫁入りするという擬制のもと踊りを請け負うということも致すのでございます
【神輿守町、傘鉾町、囃子町】
踊町の周辺には、神輿を担ぐ町、あるいは纏めいた
豪華で重い傘鉾
を担ぐことを任された町、商宮律を担当する囃子町などが受け継がれております
【朝日の按配】
奉納踊は朝七時から、その意匠はお諏訪さんでの朝日を計算してのものという話、確かに飾りの紅葉など朝日に透けた様などは見事でございます
さて、単衣の祭り衣装のおくんちが終われば、長崎も少し遅れての袷への更衣となるのでございます
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