「長崎んうまかもん」
長崎の味の代表のひとつはなんと申しましても明治末の長崎は四海楼に始まるちゃんぽん、太麺、細麺の皿うどんと共に、市内のどの中華料理店でも供されるお馴染みのものでございます
ちゃんぽんは、千円でお釣りの来るいわばB級グルメでございまして、本格的な長崎料理をとおっしゃる向きには卓袱(しっぽく)料理がお勧めでございます
卓袱は料亭料理でございまして、皆さんお揃いになりますとまずお椀が運ばれ、おかっつぁまの「それでは皆様尾鰭をどうぞ」の口上で、椎茸、餅、練り物の入った吸い物を頂いて、酒が供されるという段取りに始まるのでございますが、膳は朱塗りの卓袱(丸テーブル)、人数分が盛り合わせてございます大皿から、直箸で自分の分を取り分けますので、箸使いが肝心でございます
取り分けるオテショは一人宛二枚、これを上手に使い分けて食べられるかが、おとっしゃま方の遊び上手の物差しの一つのようでございますが、最近は替えの小皿が次々出てくるお店が多ございます
献立は海山のものを季節で供しますが、和華蘭の混合料理らしく刺身、衣の厚い長崎天ぷら、豚の角煮を定番として十五品前後、最後は梅椀と呼ぶ汁粉でおつもり、始めから終わりまでの段取りと、お店のしつらえ、おかっつぁまの挨拶までが卓袱料理でございます
他には、前にご紹介申し上げた魚を生け簀をしつらえて売り物にするお店は随分とございます
また、ちょっと目先の変わったとなると、茶碗蒸し、長崎では仕出しのお弁当に吸い物代りの茶碗蒸しということも多いのですが、その頂点に東京にも支店を出す茶碗蒸し屋がございます、売り物はいずれも中丼で供される茶碗蒸しと蒸し寿司のセット、浅草や神田須田町あたりの老舗の食い物屋に似た良いお店でございます
とまあ、定番の長崎の美味いものを紹介してまいりましたが、実はこれからがとっておきでございます
長崎には、日本最初のというものが数多くございまして、日本最初の西洋料理専門店も長崎ということで、グラバー園にその「自由亭」が移築され喫茶店として営業してございまして、脇には「西洋料理発祥の碑」が建てられております
そのような歴史の中でうまれた「トルコライス」なるものも旅とグルメの雑誌に良く取り上げられるものですが、私のとっておきのお勧めは、地元の人も驚かれる、海洋県長崎らしい「パエリア」でございます
スペイン料理あるいは、地中海料理などとも分類されますが、サフランで色と香りをつけて魚介類と炊きあげる西洋混ぜ御飯、パエジャなどともそのスペルから書きますが、東京でも供しているお店はあるようで少ない、しかし長崎でその気になって探してみると随分多くの店でこれをメニューに加えていて、大方雰囲気も良い、長崎らしく具もたっぷりでおいしいうえに、お値段もお手頃と、長崎の隠れた名品と申せます
では、パエリアにまつわる季語のことなどを少々
米は外米を使いますが、季語になりそうな新米はパエリアとしてははいかがか、香辛料であるサフランはサフランの花の蘂を乾燥させたもの、サフランの花は春ながら、サフランの蘂干すという季語はございません
調理に使うのはオリーブ油、オリーブの花、実、油を絞るいずれも季語として働くようでございます
たっぷり入った魚介類で、とりわけ目だつのが海老、季語としては新年の伊勢海老くらいしかございませんが、普通には、芝海老、車海老など使われます
貝にはムール貝(胎貝)、蛤、浅蜊など、大方春のもの、他に烏賊なども結構ですし、季節の白身魚、蟹、魚介の味を殺さない鶏肉が入ることもございます
野菜では、トマトは調味料の様に使われますが、グリンピース、オリーブの実などはトッピング、そして、レモンは添え物で魚介に汁をかけ回します
パエリアそのものは季語ではございませんが、季節のものが他にもいろいろに盛られておりますので句材としての料理のし甲斐もございましょうし、夏の海を眺めながら鍋のお焦げをこさぎつつ、冷えた白ワイン(私は赤がよろしいのですが)はよろしいものです
えっ、お勧めの店でございますか、それは、市内から程遠くない海を臨む某ホテルのレストラン、ギャルソンが美男揃いでうちの奥様お気に入りの店でございます
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